プロジェクトの始まり

自然保護がどういうものであるかなどは John Muir TrustWoodland TrustTrees for Lifeなどの組織を知っていたのでアイデアはありました。スコットランドに住んでいたときからそれらの組織のサポーターだったのです。

もともとは自然保護のために土地を探そうと思っていたわけではありませんでした。

北海道に引っ越して来た当初、友人達が森の中に別荘を持っている事に気付きました。私達も別荘が欲しいと思って不動産屋さんをいくつか訪ねてみたのですが、どこにも気に入る土地を見つける事ができなかったのです。不動産屋さんの紹介してくれる土地というのは、開発の一部になっていて、小さく区切った分譲地で、下水道完備、そして値段も高かったのです。別荘地の売りである「森の中」の「森」というのは外来種の植林地ばっかりでした。本当に心ひかれる美しい森というのは手に入らない国有林ぐらいだったのです。

1年以上はそうやって土地探しを続けてたと思います。私達がことごとく断るものですから、「じゃあ、どんな土地がいいのですか?」と色々な人たちにもきかれます。「こんな土地がいいんです」という人々に見せられるようなリストを作成して、それにあまりにもかけ離れた土地はもう見に行かないようにしようとサイモンが言いました。その作成した「私達の理想の土地」とは、「大きさ約3ヘクタール以上で20ヘクタールくらい。北海道沿岸部ではなく、中央部。占冠(上川)とか陸別(十勝)までを含め大雪山国立公園の近くがいい」。そんな土地を見つけたら、野生の花を育てたり木々を世話したりするようなことに使おうと思っていたのです。

そのリストを作った5日後の2009年2月27日、「ネット上にお探しのエリアの山林が売りに出てますよ」って職場の同僚からメールが来ていました。これがホロカトマムにある「丸山」だったのです。面積は50ヘクタールというから、考えていたものよりは2倍以上も大きかったのですが、これは面白い。すぐ持ち主に連絡をとって、1週間後には札幌まで持ち主に会いに行きました。その翌週にはスノーモービルを2つ借りる手はずを整えて、雪深い丸山まで2人のガイドに案内してもらったのです。

実際、丸山を見たら、これは、公共のプロジェクトにするべきだと思わずにはいられなかったのです。山は地形的に目立つ個性的な形をしているし、自然に恵まれているし、何しろ天然林。そして、車でも汽車でもアクセスしやすいスキー場の近くだったのも利点だと思ったのです。

それから様々な「森に詳しい人達」に相談しました。そして、5月に購入したいと入札。でも、持ち主からは一切返事が来なかったのです。ひたすらここで待ってはみたのですが、それでも持ち主から連絡が来なかったので、今は売る気がないのだろうと泣く泣く入札を取り消しました。この頃には、すでに頭の中には壮大な自然保護のプロジェクトが出来上がっていたので、丸山が無理なら他にもあるだろうと他の土地探しもはじめていたのですが、これが難しかったのでした。

秋になり、そろそろもう一度丸山のことをきいてみようと持ち主に手紙を出してみたのですが、やはり返事はなく、そうこうしている間に村役場から「あの土地は売れました、どうも木材会社が買ったようです」と返事があったのがもう12月。法務局から書類を取り寄せてみると、その会社は旭川にある造材会社だったのです。売れてしまった、しかも材木を作る会社に。

ほとんど、あきらめかけましたね。無理だと思ったのだけど、どうしてもそのままにしておけなくて、造材会社の社長宛に手紙を書きました。無謀ともいえる内容:

 「ホロカトマムの丸山をを私達に売って下さい。木を切り出して造材するために丸山を使われるのであろう貴会社の目的よりも、自然林、天然林を確保して保護したいという私達の思いは、より切実で譲る事のできない思いなのでございます。」

 

そんな手紙を送ったって多分返事は来ないだろうと思っていました。しばらくしてネットで調べたその造材会社へ電話をかけたら、会社の人の対応が優しくて、そのとき、これは大丈夫かもしれないと思った勘が当たりました。後でお会いした会社の社長さんが「いや~あの手紙には驚きましたよ」と笑うんですから。社長さんは、「こちらの損にならないように買ってくれるなら売ってもいいですよ」と同意してくれて、そして2月26日、売買契約が成立したのです。ようやく手に入った - 最初に丸山のことをきいた日から丁度丸1年が経っていました。

 

MMH/SCH, 10 May 2010