ホロカトマムのコウモリの種

ここはホロカトマムの森に棲むコウモリの調査 2012 調査中に発見されたコウモリの種別の説明です。別のページのチェックリスト (コウモリ)は、それぞれ Wikipedia へのリンクを掲載しています。

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コテングコウモリ (Murina ussuriensis)

 

分布:ロシア東端を含む北東アジア地域、韓国、日本(北海道、本州、四国、九州、対馬、屋久島、壱岐島)

 

生息環境:森林に生息する。樹洞、枯れた葉など様々な構造物にねぐらを作る。珍しい例では建築物に生息していたり、雪中で冬眠することで知られる。

 

特徴:名前の通り、小さな突出した管状の鼻孔をもつ。体色は毛の色が金色に近いグレーがかった茶色である。耳は小さく丸みをおびているが耳珠は大きい。体が小さく、低空飛行をし、停空飛翔もできるという。

 

コテングコウモリは北海道南西部で行われた福井らの調査(2009年)では最も捕獲数が多かった種であり、このとき、12箇所の調査地全ての結果をあわせると193匹捕獲されている。同じく、ホロカトマムの森においてもコテングコウモリが捕獲数の最も多い種であり、 2012年の調査中、キャッチアンドリリースで29匹であった(メス15匹、オス14匹である)。天敵はアオダイショウ (Elaphe climacophora) で、このヘビもホロカトマムで確認されている。

 


 

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ヒメホオヒゲコウモリ (Myotis ikkonikovi)

 

分布:カザフスタン (アルタイ山脈)、モンゴル、ロシア東端、中国北東、日本(北海道と本州東北地方)

 

生息環境:森林に棲む。樹洞や樹皮の下などにねぐらを作る。建築物で生息していることもある。

 

特徴:体毛は灰色がかった茶色から黒色で、見た目はウスリホオヒゲコウモリに似通っているが、尾の膜部分に見られる静脈がS字であることが特徴である。体長は約5cmである。

 

ヒメホオヒゲコウモリは北海道全域の異なる標高で観察されている。今回2012年の調査で7匹を捕獲した:メス4匹、オス3匹であった。 Myotisはギリシャ語源が "ネズミの耳" という意味であり、Myotis種は一般的に他のMurina種よりも声が大きいのでその鳴き声で気付かれることが多い。

 

 

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カグヤコウモリ (Myotis frater)

 

分布:中央アジア、東アジアに散在 - 中国、ロシア(シベリア南部)、韓国、日本(北海道と本州)

 

生息環境: 森林。樹木。北海道では(本州より数が多い)洞窟やトンネルや建築物の中で発見されることがある。

 

特徴:茶色で丸い耳を持ち耳珠は小さい。体長は約5cm。

 

福井ら(2009年)によると、北海道南西部でのコウモリ調査時、19カ所の調査地のうち、1カ所で (9匹)発見されたのみであった。今回ホロカトマムの2012年の調査で5匹を捕獲した:メス4匹、オス1匹であった。

 


 

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ウスリホオヒゲコウモリ (Myotis gracilis)


分布:ロシア東端、中国北東、北海道の北部と東部

 

生息環境:森林に棲むが、ねぐらについてはあまり明らかになっていない。

 

特徴: 見た目はヒメホオヒゲコウモリに似通っているが、尾の膜部分に見られる静脈がまっすぐであることが特徴である。体長は約5cmである。

 

保全状況評価:日本環境省レッドリスト(哺乳類2012年)によると絶滅危惧種である。IUCNには掲載がない。

 

ウスリホオヒゲコウモリのホロカトマムでの発見は、北海道で最近観察されたもののうち観察点が最も西側のようである (福井らによる2009年の北海道南西部の大規模な19箇所に及ぶ調査では、ウスリホオヒゲコウモリは発見されていない)。

 

今回2012年の調査ではウスリホオヒゲコウモリの捕獲は3匹で、すべてオスであった。

 


 

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キタクビワコウモリ (Eptesicus nilssoni)


分布:ヨーロッパからアジアまで広い範囲に分布。 ノルウエーから北海道まで、中央ヨーロッパやバルト海沿岸の国々やロシア西側も東側も含む。

 

生息環境:様々な環境に適応する、建築物の中や農業地帯にも存在する。長距離を移動し、中には450kmに及んだ記録もある。

 

特徴:体毛は茶色で、短い耳と比較的小さな耳珠がある。体長は約6cm。

 

今回の2012年の調査では、2匹のキタクビワコウモリを捕獲し、2匹ともメスであった。

 


 

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ニホンウサギコウモリ (Plecotus sacrimontis)

 

分布:日本の固有種で日本では北海道、本州、四国で観察される。また千島列島にも分布している。

 

生息環境:森に棲む。洞窟、建築物、トンネル、樹洞で確認されている。

 

特徴:長い耳で、容易に他の種と区別をすることができる。和名の由来となっている、ウサギのような大きな耳をもち、頭よりも耳が大きい。 体毛は灰色である。体長は約5.5cmを越えない。

 

この種はヨーロッパ地方のウサギコウモリ (Plecotus auritus) の亜種ではなく、違う種であることが分かっている。今回のホロカトマムでの2012年の調査では、2匹のニホンウサギコウモリを捕獲し、2匹ともメスであった。

 


 

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チチブコウモリ (Barbastella leucomelas)

 

分布:西側では最西端でエジプトで記録がある。中央アジアや南アジアにも分布。中国の一部の地域、日本。北海道東側の一部、東北地域、本州中央、四国で発見されている。

 

生息環境: 森林、岩場の隙間や洞窟、トンネル内での記録もある。

 

特徴:体毛は表面が濃い茶色をしており、その下に薄い茶色の層がある。三角形の大きな耳と大きな耳珠を持つ。体長は約6cm。

 

今回ホロカトマムにて2012年調査で1匹捕獲確認された。

 


 

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テングコウモリ (Murina hilgendorfi)


分布:カザフスタン、モンゴル、中国北東、ロシア東端、韓国、日本(北海道から九州まで)

 

生息環境: 森林。木の葉、木の枝、コウモリの巣箱、建築物、トンネル、洞窟などに棲む。

 

特徴:コテングコウモリが茶色の毛皮を持っているのに比較して、テングコウモリの体毛は灰色で銀色の長毛が生えている。この種も低空飛行をし、空中停止ができる。耳は卵形で、耳珠が大きい。体長は約5.5 cmである。

 

保全状況評価:日本環境省レッドリスト(哺乳類 2007年)によると絶滅危惧種であったが、2012年にはリストから削除された。

 

ホロカトマムでは今回の2012年調査でテングコウモリは1匹捕獲されただけであったが、苫小牧演習林(北海道大學)標高の低い調査地における福井らの調査(2009年)では最も数多く捕獲された種であったのが興味深い。

 


 

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キクガシラコウモリ (Rhinolophus ferrumequinum)

 

分布:ヨーロッパからアジアまで- ポルトガルの西側から南ヨーロッパ、アフリカ北部、中東地域、イラン、アフガニスタン、ネパール、中国、韓国、日本(北海道、本州、四国、九州)。

 

生息環境:森林。洞窟。福井ら (2009年) によると、この種は典型的には洞窟内だけでなく、トンネル内や排水溝で見られるコウモリで、日本では洞窟をねぐらにするコウモリでは最も一般的な種であるという。

 

特徴: この種は特徴的な"鼻葉"を持ち、これがエコーロケーションに使用されている。体毛は厚く、色は灰色から茶色まで様々である。体長は約7.5 cm。

 

ヨーロッパでは、この種の寿命は30年に及ぶと記録されており、コウモリ種の中で最長である。日本では23年と記録されている。食性は動物食で、蛾やコガネムシなどの昆虫類を食べる。今回の同定は鳴き声により、捕獲はされていない(上:ホロカトマムで録音されたエコーロケーションのソノグラムを参照)。

 


 

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ヤマコウモリ (Nyctalus aviator)

 

分布: 北東アジア - 中国北東部、韓国、日本。

 

生息環境:森林。特に樹齢の高い大木の樹洞を好む。農地や湖の周りでも餌を探す。

 

特徴: ヤマコウモリは虫食性のコウモリのなかでは最大である。体長は10 cmまで及ぶことがある。黄色がかった茶色の厚い毛皮である。

 

保全状況評価:日本環境省レッドリスト (哺乳類) (2012年) と中国のレッドリストによると絶滅危惧種である。ICUNレッドリストでは準絶滅危惧である。

 

多くの地域で、生息地の減少による個体の減少が報告されている。北海道旭川付近で、マタニティコロニーの報告が1例ある(出羽と小菅 2001年)。天敵にはフクロウやタカも含まれる。ホロカトマムではこの高い位置を飛行するコウモリは鳴き声で同定した。捕獲はされていない(上:ホロカトマムで録音されたエコーロケーションのソノグラムを参照)。

 


 

参考文献

 

Bat Study and Conservation Group of Japan, editors (2011): A Field Guide to the Bats of Japan, Bun-ichi Co. Ltd

Dewa, H. and M. Kosuge. 2001. Faunal survey of bats in Asahikawa area, Hokkaido. Bulletin of the Asahikawa Museum, 7: 31-38. 

Fukui, D et al (2009): 'Recent records of bats from south-western Hokkaido' in Bulletin of the Asian Bat Research Institute 8: 9-27, 2009. 8

Ohdachi, Satoshi D. I; Ishibashi, Yasuyuki; Iwasa, Masahiro A.; Saitoh, Takashi (2009): The Wild Mammals of Japan, Shoukadoh, Kyoto, ISBN 978-4-87974-626-9

The IUCN Red List of Threatened Species, 2012.1, published by the International Union for Conservation of Nature and Natural Resources

日本環境省レッドリスト (哺乳類) (2007年)

日本環境省レッドリスト (哺乳類) (2012年)

 

SCH/MMH, 31 October 2012