ホロカトマムの森に棲むコウモリの調査 2012

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ホロカトマムの森に棲むコウモリの調査が2012年8月4~15日に施行された。

調査はデイビッド・ヒル教授:Prof. David Hill(京都大学霊長類研究所)監督のもと施行され、この保護区においては最初の本格的な生態調査になった。

目的

 

本来、保護区のマネージメントプランを立てる際に何の種がどこにあるのか知る必要があった。その始めとして植生調査をする予定にしていたが、様々な要因から植生調査を実行に移す事が困難であった。このため、代替案として野生動物の生態調査を先に施行することにしたのがはじまりである。

 

コウモリは特に興味を惹かれる対象であった。夜行性のため、観察されることが非常に難しくその生態は他の野生動物に比較しても明らかにされていない部分が多く残っている。このため、コウモリの保護が遅れているという。森林はコウモリの住処として重要である。森に棲むコウモリの種類は多く、多様性に富み、虫類の数をコントロールするなどのエコシステムの重要な担い手である。

 

コウモリ調査を開催するにあたって、まずこの地域で生息している可能性が高いコウモリをピックアップした。調査前の段階ではコテングコウモリ(Murina ussuriensis)の1種だけが、ホロカトマム存在している事がわかっていた。調査監督を依頼したデイビッド・ヒル教授は、屋久島(日本の南の島)で同じコテングコウモリの調査にあたっており、その結果と比較するため、今回の調査でDNAのサンプルを10から20個採取することが可能であればと調査に大きな興味を示されていた。

 

ミーティング

 

最初のミーティングは複数の講義をまとめてする形をとった。場所は弁護士法人 市川・今橋法律事務所トマム支所(上トマム、道東自動車道トマムIC近く)にて8月4日に開催した。講師は3人。圓尾ホリッジ圭美による「ホロカトマム山林のご紹介」、平川 浩文先生(北海道森林総合研究所)による「北海道における野生生物の観測」と「冬眠するコウモリ? 雪中で発見されるコテングコウモリ」、デイビッド・ヒル教授(京都大学霊長類研究所教授) による「森林におけるコウモリ調査について」であった。デイビッド・ヒル教授は音声コウモリおとり器具、「オートバット」という、 ヒル教授と彼の同僚の所属する英国サセックス大学コウモリ研究班により開発された器具(後ほど詳述)の説明もおこなった。(すべての講義は日本語でおこなった)。

 

(こちらに調査前に作成配布したリーフレットを添付する)

 

調査期間

 

調査は8月5日(日曜日)から15日(水曜日)の間の8夜(日没1時間前から夜半まで)であった。大雨のため、調査期間中の3夜はキャンセルされている。

 

方法

 

コウモリはキャッチアンドリリースされ、ハープトラップとかすみ網をコウモリの捕獲のために用いた。オートバット器具を使用した。これは前もってコウモリがお互いを呼び合うソーシャルコールという音声を録音しておき、その音をハープトラップとかすみ網の前で流すことによりコウモリをおびき寄せる方法である (オートバットスピーカーは全てのハープトラップとほとんど全てのかすみ網の前方に設置した)。

 

デュアルヘテロダイン検波/時間軸延長機能をもつ、超音波コウモリ探知機 (Pettersson D240x) を使用して、コウモリのエコーロケーション(反響定位)、ソーシャルコール、そして、リリース時のリリースコールを感知録音した。調査は4つの異なる区域で行った。加えて5つめの調査地として、Pettersson D500録音機を山頂付近、尾根上に設置、無人録音をした。

 

捕獲されたコウモリの種、性別、妊娠の有無、成体か幼体かなどの事項を確認をし、愛護的に野生に放った。コテングコウモリ(Murina ussuriensis) の羽の一部から小サンプルを採取し、後のDNA解析に使用する予定である。

 

調査を始める前の段階で、トランセクトとして、歩きながらコウモリ探知機を使用し、コウモリの居るホットスポットの場所をだいたい推測する予定にしていたが、調査区域のどこの場所でもコウモリを探知することが可能であったため、トランセクトは行わなかった。

 

調査区域

 

 

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5つの調査区域は上記地図に示す通りである:1. 北西(小川側)2. 北斜面(低)3. 北斜面(高) 4. 尾根 (録音機のみ)5. 南東端である。調査区域間の距離はGPSのポイントを基にして距離行列として地図下方に記載した。最も標高の低くなった区域は5で (標高500m)であり、 続いて 1. (520 m)2. (600 m)3. (620 m) 4. (650 m)となった。

 

結果

 

コウモリは全部で10種が同定された:8種は捕獲のうえ確認(詳細は以下に記載)され、キクガシラコウモリ(Rhinolophus ferrumequinum)とヤマコウモリ(Nyctalus aviator)の2種は録音した音声の解析から同定された。 これは当山林内で他の哺乳類がすでに10種同定されているのと比較すると興味深い結果である。

 

キャッチアンドリリース

 

全部で50匹のコウモリがキャッチアンドリリースされた (この数には2匹の2回捕獲されたコテングコウモリは含まれない)。種ごとでは以下の通りである:

 

 

合計

メス

オス

 

 

 

成体

幼体

成体

幼体

コテングコウモリ

Murina ussuriensis

29

11

4

8

6

ヒメホオヒゲコウモリ

Myotis ikkonikovi

7

1

3

3

 

カグヤコウモリ

Myotis frater

5

3

1

 

1

ウスリホオヒゲコウモリ

Myotis gracilis

3

 

 

2

1

キタクビワコウモリ

Eptesicus nilssoni

2

1

1

 

 

ニホンウサギコウモリ

Plecotus sacrimontis

2

1

1

 

 

チチブコウモリ

Barbastella leucomelas

1

 

 

1

 

テングコウモリ

Murina hilgendorfi

1

 

 

1

 

 

調査区域ごと:

 

調査区域

日数

ハープトラップ

コウモリの合計数

コテングコウモリ

ヒメホオヒゲコウモリ

カグヤコウモリ

ウスリホオヒゲコウモリ

その他

1

2

1

12

8

2

2

 

 

2

1

1

6

4

 

1

 

ニホンウサギコウモリ (1), 

3

1

1

7

6

 

 

 

テングコウモリ (1)

5

4

2

27

13

5

2

3

キタクビワコウモリ (2), チチブコウモリ (1),  ニホンウサギコウモリ (1)

 

DNA

 

デイビッド・ヒル教授により、28匹のコテングコウモリ(Murina ussuriensis)の羽より全部で28のサンプル小片が、DNA解析のために採取された。これは血族親類関係と動物集団動態の研究に使用される予定である。

 

コウモリの鳴き声

 

ほとんど全ての反響定位(エコーロケーション)やソーシャルコール、キャッチ後のリリースコールなどのコウモリの鳴き声は携帯用のコウモリ探知機によって録音した。加えて今回調査中に自動コウモリ音声録音機(地図内650mの尾根部分に設置)を8月12-13日に設置した。この録音機には、推定5種類のコウモリの声が録音されていた(いくつかのMyotis種と Eptesicus nilssoniiVespertilio sinensis)。

 

レッドリスト種

 

調査中に同定された3種のコウモリが 環境省レッドリスト(哺乳類)(2007)に掲載されているものであった:ウスリホオヒゲコウモリMyotis gracilis絶滅危惧種、 ヤマコウモリNyctalus aviator準絶滅危惧種、テングコウモリMurina hilgendorfi 絶滅危惧II類となっていた。

環境省レッドリスト(哺乳類)(2012)では、ウスリホオヒゲコウモリ(Myotis gracilis)とヤマコウモリ(Nyctalus aviator)が絶滅危惧II類となり、テングコウモリ(Murina hilgendorfi)はリストから削除された。

 

関連するページとビデオ

 

調査中に撮影された写真は後ほど掲載予定である。赤外線カメラで撮影したコウモリ調査の様子のビデオはVimeoに掲載した。

 

コウモリの種に関しては参照先:チェックリスト:コウモリホロカトマムのコウモリの種

 

SCH/MMH, 18 October 2012