ホロカトマムの小型哺乳類調査2016

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タイリクヤチネズミ(Myodes rufocanus)

 

 

 

ホロカトマム山林にて小型哺乳類調査が北海道旭川のオサラッペ・コウモリ研究所の出羽寛、清水省吾により施行された。


 

背景

 

捕獲(キャッチアンドリリース)調査が2016年9月15日ー17日の3日間に渡り施行された。前回は3年前の2013年7月22日ー25日であり今回は2回目の調査になる。2013年の調査では調査期間中ヒメネズミ(Apodemus argenteus)が一頭捕獲されただけであり、この年はネズミ類の生息数が極端に減少していたのが別地区でも確認されていた。2016年の調査は2013年と同様の方法を採用した。


 

方法

 

捕獲調査は初日にトタン製の生け捕りワナとプラスチックの墜落缶を使い、図1に示したように5カ所の調査区を設定した。それぞれの調査区には20個の生け捕りワナ(餌はエン麦を使用)を10m間隔で曲線状に設置、墜落缶は5個設置して9月17日まで2日間の捕獲調査を行った。

 

調査区ごとの相対密度(100TNあたりの捕獲数、T:トラップ、N:ナイト)を算定する際、初めて捕獲される個体と再捕獲個体を区別する必要があるため、調査区毎に位置を変えて体毛の一部を刈り取る方法を用いた。


 

調査区の概況

 

St.1 ポロカトマム川に沿った林道沿いの平地。標高499m。

 

樹種はハルニレ(Ulmus davidiana var. japonica)、シラカンバ(Betula platyphylla)、ケヤマハンノキ(Alnus incana hirsuta)、ヤナギ類、ミズナラ(Quercus mongolica) 等

樹間閉鎖度 42%

林床はほぼクマイザサが密生する部分が多い(林床植被率 74.0%)。

 

St.2 登山口付近から南側斜面下部。標高 503m〜544m。

 

樹種はハルニレ(Ulmus davidiana var. japonica)、シラカンバ(Betula platyphylla)、イタヤカエデ(Acer pictum)、キハダ(Phellodendron sachalinense Sarg)、ミズナラ(Quercus mongolica) 等

樹間閉鎖度 50.0%

林床は登山口付近にヨシが密生する部分があるが、比較的急な斜面上はクマイザサが密生する(林床植被率 82.5%)

 

St.3 St.2の上部の急斜面。標高584m〜657m。

 

樹種はシナ、ミズナラ(Ulmus davidiana var. japonica)、シラカンバ(Betula platyphylla)ヤチダモ(Fraxinus mandshurica)、イタヤカエデ(Acer pictum)、ケヤマハンノキ(Alnus hirsuta)、ノリウツギ(Hydrangea paniculata) 等

樹間閉鎖度 59.0%

林床はほぼクマイザサが密生する(林床植被率 93.0%)

 

St.4 山頂から北側斜面。標高662m〜611m。

 

樹種はシラカンバ(Betula platyphylla)が多く他にキハダ(Phellodendron sachalinense Sarg)、エゾマツ(Picea jezoensis)、トドマツ(Abies sachalinensis)、ナナカマド(Sorbus commixta)、オオカメノキ(Viburnum furcatum)、ハウチワカエデ(Acer japonicum)、ホオノキ(Magnolia obovata)

樹間閉鎖度 57.0%

林床はほぼクマイザサが密生する(林床植被率 94.0%)。

 

St.5 北側斜面下部から小沢に沿った斜面。標高608m〜565m。

 

樹種はトドマツ(Picea jezoensis)、エゾマツ(Abies sachalinensis)、イチイ(Taxus cuspidata)、イタヤカエデ(Acer pictum)、ナナカマド(Sorbus commixta)、キハダ(Phellodendron sachalinense Sarg)、シラカンバ(Betula platyphylla)、ハウチワカエデ(Acer japonicum)

樹間閉鎖度 55.0%

林床はクマイザサが他の調査区よりもやや少ない(林床植被率 92.0%)。

 

結果

 

生け捕りワナ

 

タイリクヤチネズミ(Myodes rufocanus) 5頭、St. 1 (2頭), St.4 (1頭) St.5 (2頭)

ヒメネズミ(Apodemus argenteus)1頭、St.5 (1頭)

 

墜落缶

 

オオアシトガリネズミ(Sorex unguiculatus) 3頭、St. 2 (1頭), St.3 (2頭)

バイカルトガリネズミ(Sorex caecutiens) 1頭、St. 4 (1頭)

ヒメトガリネズミ(Sorex gracillimus)1頭、 St. 4 (1頭)

 

2013年に行った調査では6箇所の調査区、3日間の調査でヒメネズミが1頭捕獲されただけであった。

 

総捕獲数の相対密度(100TN値)で見ると、2013年は0.28(ヒメネズミ1種)、今年の調査では3.0(タイリクヤチネズミ、ヒメネズミの2種の合計)であった。

 

他地域での調査でも100TN値が上下することがわかっており、100TN値2.2が翌年32.3と前年よりも10倍以上も高密度になることもある。

 

ヒメトガリネズミ(Sorex gracillimus)は全道に分布するが、道北、道東、および大雪山系などの高標高地には多いが、道南では少ない。今回日高に近い上川南部のトマム地区での捕獲は初めての記録である。


 

謝辞


北海道立総合研究機構林業試験場の中田圭亮氏には道有林における過去10年間の野ネズミ類の予察調査結果を提供して頂いた。ここに、厚くお礼を申し上げる。



レポート


出羽寛博士によるhtmfsurvey4.pdf


Simon and Masumi Holledge, 12 March 2017